きみに触れられない

夏の青が眩しくて

ハルの存在が、みんなには見えない?

私だけが見えるの?

そんなこと、ありえない。

あるはずがない。

だって、ハルは笑いかけてくれたじゃないか。

優しい言葉をかけてくれたじゃないか。

私が変われたのは、ぜんぶ、ハルのおかげなのに。


カナや綾芽ちゃんの言葉を信じたくなくて、私はずっと自分に言い聞かせていた。


早く真相を確かめたかった。

カナや綾芽ちゃんが言っていたことが間違っていると、ハルに否定してほしかった。


私はひたすら放課後になるのを待っていた。


やがてチャイムが鳴り響いて放課を知らせる。

さようならと言うが速いか、私はスクールバッグを持って教室を出た。


「米山さん!」


カナの叫ぶ声が耳に残る。

だけど、止まれなかった。

足も、心も、ハルのもとへ急いでいる。


普段なら走らない廊下も、今日は全力疾走だ。

途中で「廊下を走るな!」と誰か先生に注意されたけど、気に留めない。

留まらない。

留めている場合じゃない。


「ハル…っ」


ハルに、会いたい。

ハルに、聞きたい。


そう思えば思うほど、ハルの笑顔が次々に思い出される。

そのたびに胸がぎゅっと苦しくなった。

逸る気持ちは抑えられないまま、屋上に続く階段を駆け上った。
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