きみに触れられない
感情的になった脳は、ヒートアップして冷静さを欠いていた。
言ってから、ようやく気づく。
こんな言い方をしてしまったら、ハルを傷つけることだってあり得るのに。
私はハッとして、口を噤んだ。
「あの…ハル、ごめんね。ちょっと、混乱してて…」
私が謝ろうとすると、ハルは「いや、謝らなくていいよ」と制した。
「みーちゃんが混乱するのは、仕方がないというか、当然のことだと思う。
びっくりするよね、自分が今まで普通に接してきた相手が、他人には見えないんだから」
そりゃそうだよ、とハルは自嘲的に笑った。
その笑い方は、いつものハルの笑い方じゃなかった。
くしゃりと目を細めて笑う、ハルの笑顔じゃなかった。
苦しそうで、悲しそうで、今にも消えてしまいそうなくらい儚い、そんな笑顔だった。
痛かった。
そんなハルの笑顔を見るのは、心が痛かった。
やめて、と叫びたかった。
そんな笑顔をするのはやめてと言いたかった。
でも、言えなかった。
そんなこと言ったらハルが消えてしまいそうで怖かった。
私とハルに沈黙が訪れて、ハルはしばらく下を向いていた。
私はハルを見ていた。
ハルから目が離せなかった。
しばらくするとハルはハッと顔を上げて、ふにゃりと笑った。
目を細めて、口端をきゅっと引き上げて。
ああ、無理して笑っているんだと一目で分かった。
見ている方の胸が痛む笑顔だった。