きみに触れられない
「これで信じた?」

ハルは息を吐き出しながらそう言った。

そして自分の後ろを指しながら、「影もないでしょ?」と言った。

「え?」

私は慌てて振り返った。

屋上のコンクリートに伸びる私の影。

その隣にあるはずのハルの影はどこにも見当たらない。

私は今度こそ目を見開いた。

自分の影と、ハルの姿と、そこにあるはずのハルの影を何度も見返した。


「今まで気づかなかったの?」


ハルはクスクス笑っていた。

私は俯いて頷いた。


全然、分からなかった。

全然、気づかなかった。

ハルがユーレイだなんてそんなこと思ったことなかったし、影に着目したこともなかった。

屋上は光が溢れて眩しくて、私はいつも目を細めていた。

それに屋上では空と街をずっと見ていた。

そうでない時はハルの顔を見ていた。

だからハルの影なんて見る隙もなかった。


きっと、目が眩んでいたんだ。

夏の青が眩しくて、ハルの秘密も影も見えなかったんだ。


そんな言い訳じみたことを考えて、だけど口には出せなかった。


「まあ、普通、こうやって話している人がユーレイだなんて思わないよね」

ハルはまるで他人事のように笑う。

どうしてそんなに笑うのか分からない。

だけど今のハルの笑顔は見ていて苦しくなる。
< 168 / 274 >

この作品をシェア

pagetop