きみに触れられない
だけど、笑わないで、とは言えなかった。

そんな笑顔をしないで、って言いたかったけど、言えなかった。

何も言えなくて、下を向いた。

どれくらいか時間が経って、私はようやくハルの名前を呼んだ。


「ハルはさ、どうしてユーレイになったの?」


するとハルは空を仰いで「うーん」と唸った。

「どうだったっけなあ」

忘れちゃった、と私の方を見ると目を細めて笑った。

「でも、気楽だよ?ユーレイって。ほら、ユーレイには学校も仕事も何にもないからさ」

「ずっと自由でいられる」とハルはまた空を仰いだ。

先ほどより空の青は濃くなっていた。

まだ西の空は明るいけれど、東の空は青が深い。

夜の色に近づいている。


「ハルは、成仏、しないの?」

「そうだね」


ハルは頷いた。


「成仏はできないな」


その瞳には澄んだ青を、刻々と色を濃くしていく空を映していた。


「どうして?」


するとハルは私の方を見て笑った。


「俺、未練タラタラだから」


笑っちゃうでしょ、とハルは言う。
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