きみに触れられない
「なあ、こんなところに来てるってことはさあ、あんたも暇なの?」

「…別に」

答えてから後悔した。

間違えた。大失敗だ。こんなやつに返事したら絶対面倒くさいのに。

やってしまったと後悔すると同時に、そいつはニコッと笑った。

「そう、俺も暇なんだよねー」

__なんだかすごく嫌な予感がする。

嫌だな、逃げ出そうか。

この場から立ち去ろうとしたときだった。


「暇ならちょっと付き合ってよ」


__ああ、最悪だ。



「どうして」

「だって、こんなところに1人でいても暇でしょ?」

「そんなこと言われても」

嫌なんですけど、と言いたくても言えなくて、なんとかオーラで分かってもらえないものかと必死にアピールする。

「じゃあさ、俺の話し相手になってよ。ここにいるだけでいいからさあ」

意外と、この人、しつこい。

しつこい上に腹が立つほどポジティブだ。


「ね、お願い」


そんな可愛い声で言われたら、ダメなんて言えなくなる。

あざとい。あざといけど、可愛い。


というか、男の子が、それも自分と同い年かそれ以上の男の人が、可愛いなんて。


私も一体どうしたのだろうかと心配になるほどに、彼は可愛らしくて爽やかで、そしてかっこよかった。


「…話聞くだけでいいなら」

すると彼はパァッと蕾が花開くように笑顔になった。
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