きみに触れられない
ハルの手はやはり掴んだ瞬間にすり抜けていった。

それでもかまわずに私はハルの手を握ろうと包み込んだ。


「ハルは私の友達だよ」


私が微笑むとハルは目を見開いた。

それから吹き出して笑った。

あはは、と肩を揺らして笑う。


「何がおかしいの!」


訳が分からず尋ねるけど、ハルは笑い続けた。



「ハル!」


するとハルは「ごめん、ごめん」と笑いながら謝った。


「…ありがとう」


声は少し涙色だったけれど、微笑んだ顔は、くしゃりと笑う、いつものハルの笑顔だった。

私の好きなハルの笑顔だった。


ハルはユーレイで、好きなひとがいて。

その人が幸せになってほしくて、その姿を見るまでは成仏できない。


頭で繰り返す度、言葉にできない切なさが胸に降り積もっていく。

けれどそれも見て見ぬふりをした。

降り積もる切なさを直視していると、心に穴が開いていくようで心が壊れそうだった。

ハルの心からの笑顔が見れて嬉しい気持ちで胸をいっぱいにして、心の穴を埋めていたかった。
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