きみに触れられない
6章
こぼれる涙の色
心に穴が空いてしまいそうになった私は、それを塞ぎたくて必死に嬉しい気持ちで心を満たそうとした。
もし完全に心に穴が開いてしまったら、人は無理に笑ってその空いた穴を塞ごうとするのかもしれない。
楽しいのだと、嬉しいのだと、自分を、心を騙して、その穴を塞いで心を安定させようとするのかもしれない。
そんなことを思ったのは、次の日の学校だった。
「おはよう、米山さん」
「おはよう、塩谷くん」
教室でかわす、カナとのいつものあいさつ。
書いては消される黒板も、教室の配置も、いつもと何もかも変わらない。
「おはよ、ミサ!」
「お、はよう。綾芽ちゃん」
やってきた綾芽ちゃんが元気な笑顔であいさつしてくれた。
珍しいことがあるものだと、その背中を見ていた。
本来、綾芽ちゃんは朝が苦手でいつも朝は少しテンションが低く、声もいつもより少し低い。
そんな姿から、綾芽ちゃんはとてもクールなのだと思っていたほどだ。
それなのに、今日はテンションが高い。
明るい、まるで太陽みたいだと思った。