きみに触れられない
「ねー、ミサ!」

「な、なに?」

「昨日のドラマ見た?」

綾芽ちゃんはまるでお酒でも飲んだのではないかと思うほど、異常なテンションの高さで振る舞う。

__おかしい。

明らかに、おかしい。


「あ、綾芽ちゃん?」

「ん?」

「な、何か、あった?」

「へ?」

綾芽ちゃんは笑顔のまま首を傾げた。

「何か、あったかなあ…って、思って…」

「ええ~? 何もないよ?」

どうしたの?なんて逆に心配される始末。


もしかして、私の勘違い?


「な、何もないならいいんだけど…」


私が少しうつむくと綾芽ちゃんは私の両手を握った。

はっと顔を上げると綾芽ちゃんは微笑みかけていた。

泣きそうな顔で、微笑んでいた。


「綾、芽ちゃん…」

「ほんと、ミサって優しいね」

しみじみと、まるで言葉をかみしめるように言う。

今、目の前の綾芽ちゃんに言いたい気持ちはたくさんある。

言いたい言葉もたくさんある。


けれど、それを言ってもいい?

私なんかが、偉そうに、なれなれしく言ってもいい?


私は迷っていた。

きっと綾芽ちゃんなら受け入れてくれるだろう。


でも、もし嫌われたら、どうする?

私の言葉で綾芽ちゃんが私を嫌いになったら、どうする?


それを想像すると怖くて仕方がなかった。

< 174 / 274 >

この作品をシェア

pagetop