きみに触れられない
「……ありがとう」


綾芽ちゃんは目を閉じて笑った。


今まででいちばんうれしい感謝の言葉だった。


「実はね、ミサに聞いてほしいことがあるんだ」


綾芽ちゃんは少し言葉に詰まりながらそう言った。


「え、私、に?」

「そう、ミサに」


驚いて自分を指さす私に、綾芽ちゃんは笑った。


「…聞いてくれる?」


私は頷いた。


「ありがとう」


微笑む綾芽ちゃんはいつもより儚げで、見ているのがつらくなるほどだった。


そして日は傾いて、放課後。


私たちが向かったのは、屋上だった。

屋上に向かう途中の廊下で、綾芽ちゃんに「ねえ、ミサ、大丈夫?」と聞かれた。

「へ?」

「だって、ミサ、屋上で一人でいたのに誰かに向かって話してたんだよ?」

本当に大丈夫なの?と心配された。


『だって俺、ユーレイだから』

ハルの言葉を思い出してしまった。

ハルの儚い笑顔も、思い出してしまった。


ハルはユーレイで、好きなひとがいる。

その人が幸せになってほしくて、その姿を見るまでは成仏できない。


その事実だけで、どうしてこんなに胸が痛い?


「あー、うん。大丈夫」


私はそんな思いをどこかへ追いやるように笑った。

「本当に?」と念押しする綾芽ちゃんに「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と笑った。

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