きみに触れられない
「私、ああやって誰かに話すような話し方で話すとストレス発散になるから」

そう言って笑うと、綾芽ちゃんは納得したようで「ふーん」と言った。


__胸が痛むのは、きっと、気のせいだ。


そう言い聞かせて、屋上に続く扉を押し開けた。


空は晴れ渡って、傾いた陽の光は木々やグラウンドを黄金に照らしていた。

眩しいくらいに、切なく輝いていた。

その様子に私は目を奪われた。


座り込んだ綾芽ちゃんは「あのね」と話を始めた。

私は振り返ってフェンスに背中を預けた。



「花火大会で、ミサがいなくなって二人きりになったときにね、あたし、塩谷君に告白したんだ」



私は目を見開いた。


時が止まったような感覚がした。


今、なんて?

カナに、告白した?

綾芽ちゃんが?


「そ…っか」


カナが離れていく。


カナが遠くへ行ってしまう。


嫌だよ。


でも、それでカナが幸せになれるなら。


喜ばなくちゃ。

祝福しなきゃ。


そんな感情の狭間から咄嗟に出たのはそんな言葉だった。


けれど綾芽ちゃんは微笑んで少しうつむくと首を横に振った。
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