きみに触れられない
「…だめだった」


しばらくしてから顔を上げた綾芽ちゃんは眉を八の字に下げて微笑んだ。


「…え…?」


今度こそ驚きで思考回路は停止した。


うまく、いかなかった?


「フラれちゃった」


笑っちゃうでしょ、と綾芽ちゃんは乾いた笑い声をあげた。


「ど、うして…?」


2人はあんなに仲良さそうだった。

あんなに幸せそうだった。

2人は想いあっているのだと、信じてそう疑わなかったのに。

それに、綾芽ちゃんほどの人が、どうしてカナにフラれるの?

明るくて、誰にでも優しい綾芽ちゃんが、どうして選ばれなかった?


混乱している私を見て綾芽ちゃんは静かに言った。


「…あたしは、驚かなかったよ」

「え…?」


「だって、無理だって分かってたから」


最初からね。

綾芽ちゃんは立ち上がると私の隣にきて、フェンスに腕を乗せて街を見下ろした。


「無理だなんて、そんな、どうして?」


「答えは単純明快だよ」


綾芽ちゃんはフェンスに乗せていた腕を組むとうんと背伸びをした。



「塩谷君には最初から、好きなひとがいた」



「そんなの、勝ち目ないでしょ?」と綾芽ちゃんは目を細めた。
< 178 / 274 >

この作品をシェア

pagetop