きみに触れられない
「好きな人が…」

カナに、好きな人がいる。

そんなのまったく考えてこなかったわけじゃない。

むしろどうして今まで彼女がいなかったのかということの方がずっと不思議で仕方がない。

私はその答えをずっと、カナが恋愛に興味がないからだとか、部活に集中したいからだとか、そういう風に考えていた。

実際カナ本人からも、周りからも、カナの好きな人の話は全く聞かなかった。

だけど、カナにはいたんだ。

好きな人が、特別な人がいたんだ。

その人のことをずっと、ずっと、心の中で秘密にしていたんだ。


周りはおろか、私にさえ気づかせないほど。



「あたし、無理だって分かってた。

それでも、万が一にも可能性があるんじゃないかって思った。

その可能性にかけてみたんだ」


綾芽ちゃんは「無謀だけどね」と笑った。

その微笑みが切なくて、私の心まで痛くなった。

引き裂かれそうなくらいに、胸が痛かった。


「やっぱり、無理だった」


綾芽ちゃんは元気さを取り繕うように笑顔で、大きな声で言った。
< 179 / 274 >

この作品をシェア

pagetop