きみに触れられない
「笑っちゃうでしょ」

綾芽ちゃんは私の方を見て笑った。


「無理だって、分かってたのに。

絶対叶いっこないって、分かってた、のに」


笑顔が、言葉が、滲んでいく。

涙色に染まっていく。


「もしかしたらって、期待しちゃったんだ」


綾芽ちゃんはうつむいていた。

震える背中をさすった。


「分かってたんだよ…?」

「うん」

「ちゃんと、分かってたんだよ…?」

「うん…」


今の私には、今の綾芽ちゃんに役立つことなんて言えなかった。

きっと何か言えたとしても、それは苛立つ綺麗事のように聞こえてしまっただろうと思う。

今の私に何ができるかなんてもう分からない。

私にできることなんてきっと、ほとんどない。


ただ綾芽ちゃんの隣で、その心に寄り添って、隣にいることしかできなかった。


流れ落ちた涙は夕日に輝いて茜色に染まった。

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