きみに触れられない
するとハルは一瞬目を見開いてそれから穏やかに笑った。

「みーちゃんって、すごいね」

「何が、ですか?」

「みーちゃん、おもしろい」

ハルはこちらを向くと「敬語」と言った。

「敬語、なしにしよ」

いきなり話を変えるのも、この人のくせなのだろうか。

突然話が飛んで、呆気にとられてしまう。

「え…でも、ハルって…」

「うん、俺はみーちゃんより年上だよ」

さらりと重要なことを言うので思わず聞き流しそうになってしまう。

「3年生なんですか?」

私は高校2年生。

ならば私より年上ということは、受験生ということになるのではないだろうか。

「そうだね」

ハルは変わらない笑顔でニコニコ笑っている。

「それなら、昼休みにこんなところにいたらいけないんじゃないんですか?勉強しなくちゃいけないんじゃないんですか?」

ちょっとしたいじわるのつもりでそう言えば、ハルは「俺、進学するつもりはないよ」と言った。

その言葉を聞いて、ようやく自分がなんてことを言ったのか思い知った。

「ごめんなさい!私、なんてことを!」

すると「顔をあげてよ」と穏やかな顔をした。

「みーちゃん、別に謝るようなこと言ってないでしょ?」

「でも!」

ハルは「困ったねえ」と眉を八の字にして呟く。

「じゃあ、ちょっとでも申し訳ないって思ってくれているのならさ、敬語はなしにしよ」

ね、と微笑まれる。

穏やかで、優しくて、ずっと見ていたくなる笑顔だ。

< 19 / 274 >

この作品をシェア

pagetop