きみに触れられない
クラスのざわめきの中で、カナの歩く音が、足音が聞こえる。

近づくその音に、鼓動はさらに早くなる。

ドクン、ドクン。

息を潜めて、動きを止めて、ただひたすらカナが通りすぎるのを待つ。

一際大きな足音に、体はまるで金縛りにでもあったかのように動かなくなる。

ぎゅっと目を閉じて、カナが横切るその瞬間を待ち続けた。

けれどすぐに来ると思ったその瞬間は一向に訪れない。

どうして、と思ったその時だった。


「おはよう、米山さん」


快活で明るいカナの声が聞こえた。

ゆっくりと見上げると、カナは目を細めて微笑んでいた。


「…お……はよう、塩谷くん…」


やっとの思いでそれだけ言うと、カナは一層目を細めて私の横を通りすぎて自席についた。


バクバクと緊張は止まらない。

これは私だけなの?

カナは何ともないの?


まるで昨日の出来事が夢だったかのように、カナは普通に接してくれた。挨拶をしてくれた。


こんなにも気にして緊張している自分がまるで馬鹿らしくなって、ひとつ溜め息をこぼした。

それから勉強をするカナの背中を見ていた。

するとカナはクラスメイトの男子から話しかけられて楽しそうに話し出した。

その姿を見て、私はさらに分からなくなった。


どうしてカナは私を選んでくれたのだろう。


私とはかけ離れたカナの楽しそうな雰囲気に、私はまたひとつ溜め息をこぼした。
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