きみに触れられない
それから午後の時間はぼうっと過ごしていた。

ただ黒板を書きうつしては、教科書に視線を落とす。

先生の声も、黒板の文字も、なんだか遠い世界の出来事のように感じられて、溜め息ばかりが出た。

世界が色を失っていく、色褪せていくというよりは、世界から切り離されたような感覚がしていた。


放課後になって、私はぼうっと支度をしていた。

「大丈夫?さっきからずっとぼうっとしてるでしょ?」

綾芽ちゃんは心配してくれて何度か声をかけてくれた。

「うん、大丈夫」

私は力なく笑った。

それは自分にも言い聞かせているようだった。

大丈夫だと言っていないと、自分が崩れてしまうんじゃないかと少し怖かった。


カナも気にかけてくれているようだったけど、何も言ってこなかった。

ただその視線が心配だと語っていた。


「もう、帰らないと」

「ちょっと、ミサ?」


私はそのまま教室から廊下に出た。

視線は足元に向けたまま、覚束ない足取りで歩く。

ほとんどの生徒は部活へ行ってしまったのか、人はほとんどいなかった。


「米山さん!」


名前を呼ばれて振り返ると、そこにはカナがいた。

カナは私のところまで走ってくると「ミサ、待って」と息を整えながら言った。
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