きみに触れられない
「どう、したの?」

するとカナは「ごめん」と頭を下げた。

「え?」

「俺のせいだよな、きっと。
そうやってミサが暗い顔をするのは、俺がきっと困らせたからだろ?」


カナは苦しそうな顔をした。


「俺はミサには幸せでいてほしい。

俺があんなこと言ったせいでミサを苦しめてしまうなら、昨日のこと全部忘れて」


「か、な…」


ああ、きみは優しすぎる。

きっと私が想像できないほどきみは私のことを考えてくれたのだろう。

そして自分を責めて、きっと何より緊張した告白を『あんなこと』なんて言って、忘れろなんて言う。

こんな私のために、きみはどれだけ自分を犠牲にするの。


「あんなこと、なんて言わないで」


私は手のひらをぎゅっと握った。


「嬉しかったよ。好きって言ってもらえて、嬉しかった。

だからそれを『あんなこと』なんて言わないで。

『忘れて』なんて言わないで。

自分を責めたりしないで

そうやって自分を責めるカナを見てると私まで辛くなっちゃう」


私は肩をひそめて笑って見せた。


「カナのこと、好きだし、誰よりも幸せになってほしいし、いつも感謝してるし、私の中でカナは特別な人だよ。

だけど、ごめんね」


私は握る手に力をいれた。


本当は伝えたくない。

カナを傷つけると分かっている言葉なんて。

言いたくもないし、むしろ耳を塞いであげたいくらいだ。


だけど、それでも、

言わなきゃ前に進めない。





「カナの気持ちには応えられない」






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