きみに触れられない
カナは黙ったまま静かに聞いてくれた。

悲しそうな表情も、辛そうな表情も、笑顔も見せずに、ただ真剣に私の言葉に耳を傾けてくれた。


「気持ちには応えられないけど、カナとこれからも仲良くしたい。

もうこれでカナと仲良くできないなんて、嫌だ」


今までの絆がこれを機になくなってしまう。

それは考えただけで苦しい。


「我が儘で、ごめん。

だけどこれが今の私の気持ち…です」


…カナはどんな反応をするだろう。

怒るかな、無視するかな。

怖くて、俯いた。


すると頭に何か暖かい感触がした。



「え…?」


顔をあげようとしたけど、「そのままで」というカナの優しい小さな声が耳に届いた。

カナはしばらく私の頭を撫でると、また私の頭に手を載せた。


「…ミサは本当に優しいな」


「へ?」


うまく聞き取れなくて聞き返すと「なんでもねぇよ」とカナは言った。



「…ミサの気持ちが聞けて良かった。ありがとう」



最後にそう呟くと「じゃあな」と片手をあげて教室に戻っていった。

私はカナの後ろ姿が見えなくなるまで見ていた。


さっきまでカナが触れていたところに手を置いてみる。


カナの体温が少し残っていて、暖かかった。


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