きみに触れられない

伝えられない言葉、届けたくない想い

次の日、家を出ると「ミサ!」と声をかけられた。

「か、な」

「おいおい、『誰だこいつ?』みたいな顔すんなよなー?ミサの幼なじみだぞ」


カナは軽い調子で話す。


「ほら、一緒に行こう!」

「え、ちょっと!」


もう朝練遅れるから、とカナは若干強引に私の腕を引っ張った。

快活で明るい笑顔。

カナは朝から笑顔もテンションもトップギアだ。


カナはしばらく歩くと私の腕を離して「引っ張って、ごめん」と謝った。


「こうでもしないと、俺、これからミサと一緒にいられない気がしたんだ」


情けねぇけど、とカナは自嘲するように笑う。


「カナ…」

「俺、ミサに嫌われてミサがもう俺と話したくないんだとしたら…まあ、辛いけど。でもそれでも俺はミサと仲良くしていたい。

そう思ってるから」


そこまで言うとカナはハッと気づいたように笑った。


「…なんで、泣くんだよ」


柔らかい声が、優しい言葉が、心を包んでいく。


「だって…!」


もうダメだと思ってた。

私がカナとの関係を壊したのだと思ってた。

今まで作り上げたものも思い出もすべて壊してしまったと、そう思っていたのに。


それを言うと「ミサはさ、俺達をなんだと思ってるわけ?」とカナは話し出した。


「俺達は幼なじみだぞ。物心ついたときからずっと一緒にいるんだぞ。保育園のときからクラスがずっと一緒で、家族より同じ時間を過ごしてきたんだぞ。

俺達の絆はこんなことくらいじゃ千切れない。

そんな柔な絆じゃないだろ?」


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