きみに触れられない

通学路、太陽みたいな声

朝、7時。

制服に着替えて眠たい目を擦りながら、下のリビングへ向かう。

「おはよう」

リビングに入れば、そこには誰もいなかった。

「そっか」

そう言えば、お母さん、今日は早番って言っていたっけ。

思い出してテーブルを見ると、ピンクやオレンジの花の模様が周囲を彩る綺麗な紙が置いてあった。

目を落とせば、それはお母さんからの置き手紙だった。


『美咲(みさき)へ

お母さん、今日は早番だからもう出勤します。

朝食は適当に、でもちゃんと食べてね。

火の元と電気を切って、戸締りはしっかりね。
気をつけていってらっしゃい』


綺麗で読みやすい文字。

文字の止め跳ねがはっきりしているのが、お母さんらしい。

そっと手紙を置く。


『朝食は適当に、でもちゃんと食べてね』とお母さんは言ってくれたけど、でも何も食べる気になれない。

きっとそんなことを言ったら、「そんなこと言ってないで食べないと元気が出ないよ!」とお母さんは言いそうだけど。

スクールバッグに必要な教科書やノートを入れ、身支度を済ませると家を出た。

お母さんに言われた通り家に鍵をかけていると、「ミサ!」と呼び掛けられた。

その声は隣の家からだった。

「おはよう」

朝から快活で爽やかな笑顔をくれたのは、隣に住む幼馴染み、塩谷奏人(しおたに かなと)だ。
< 2 / 274 >

この作品をシェア

pagetop