きみに触れられない
「どうしたの?」

ハルは少し笑って問いかける。


ハルは私が好きで、私もハルが好きで。

両想い。

きっと童話なら、めでたしめでたしと幸せになれる状況なのに。

幸せな状況のはずなのに。


どうしてこんなに、こんなに、悲しいの?



「私、ハルと友達でいられてよかった」



気持ちを全部押し殺して、にっこり笑ってみせた。


言いたい。

言えるのなら、言いたい。

きみが好きだと、言いたい。


だけどそれを言ってしまったら、ハルが私の前からいなくなってしまうのならば。


感情を押し殺して、鍵をかけて、見て見ぬふりをして、いっそこの気持ちを忘れてしまいたい。



ハルは一瞬動きを止めて、それから微笑んだ。



「みーちゃんは俺の友達だよ」


それから私は微笑んで頷くと、まだ食べきっていないお弁当を片付けた。


「じゃあね」


バイバイと手を振って、屋上を後にする。


扉を閉めて階段を駆け下りると、座り込んでうつむいた。

下を向くと涙がこぼれてきた。

泣く声がハルに聞こえてしまわないように、声を押し殺して静かに泣いた。
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