きみに触れられない
悲しかった。

悔しかった。

言いたかった。

ハルに好きだと伝えたかった。

ハルが好きだと伝えてくれたのに、私たち両想いなのに。


けれど、私の感情はハルには伝えてはいけない言葉。

届けてはいけない想い。


きみを失くさないために。


失恋した綾芽ちゃんは泣いていた。

失恋したカナは悲しそうに笑っていた。


好きな人の好きな人になれなかったらきっと悲しい。

涙がこぼれるくらい悲しい。


だけど、分かんないよ。

好きな人の好きな人になれたのに、どうしてこんなに悲しいの。


小説の女の子は、好きな人と両想いになって幸せそうに涙を流していた。

きっといつか私も恋をして、好きな人と両想いになれたら、涙を流すほど幸せになれるのかと想像していた。

でも、現実は違った。


「……ハル…っ」


__ハル、私はきみのことがこんなに好きなのに。


私はきみに触れられない。

きみに想いも伝えられない。


恋がこんなに悲しいって、両想いになっても悲しいことがあるんだって、初めて知ったよ。



私はしばらく泣き続けた。

声を押し殺して、涙だけがいくつも頬を伝った。


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