きみに触れられない
「そう言ってくださって嬉しいですけど、でも、直接渡します」

先生方は、そっか、と微笑んでくださった。

「ちょっと探してきますね」

行ってらっしゃいと手を振る先生方に微笑んで部屋を後にした。


ナースステーションの前を通ると、「先生と会えた?」と看護士さんに聞かれて、私は首を横に振る。

「さっき行ってみたら、病室にいるって教えてくれて」

「すぐに見つかるといいわね」

「ありがとうございます」

それから私は病室が並ぶ方へと歩いた。


廊下の突き当たりには大きな窓がついていて、そこから思わず目を細めてしまうほどの眩しい夕陽が射し込んでくる。

お父さんはどの病室にいるのだろう。

ひとつひとつの病室についている扉は換気のためかすべて開け放たれていた。

中にいる患者さんの邪魔にならないように遠くからこっそりと病室の中を覗く。

けれどどれだけの部屋を覗いてもお父さんの姿は見えない。

一体どこにいったんだろう。

はあ、と溜め息を吐いて次の病室へと視線を逸らしたその時だった。



ひらり、病室に取り付けられたカーテンが突然吹いた風に舞った。



ひらり、ひらり、踊るように、遊ぶように、笑うように、舞うカーテン。


私はそれに吸い寄せられるように隣の病室に足を踏み入れた。


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