きみに触れられない
勢いよく風が吹き抜けて、カーテンを揺らす。

風が吹いてきた方向を見ると病室の窓が開けられていた。

吹き込む風は穏やかでとても心地が良かった。

ハルの方に視線を戻すと、風がハルの髪をも揺らしていた。

ハルの黒髪が風に少しなびいて、乱れてしまった前髪を戻そうと手を伸ばした。


触れた。


その時になって初めて気づいた。

目を見開いて思わず固まる。


ハルに触れた。


それはとても奇妙な感覚だった。


今まで触れようとしてもすり抜けて触れられなかった。

そのハルに今、触れている。


前髪を触っていた手を下に動かして、額、頬へと指を滑らせる。

それからハルの手を握ったとき、何だか無性に泣けてきた。


手に伝わるハルの体温は暖かかった。


心は感情でいっぱいになっていた。

嬉しいのか、悲しいのか、切ないのか、もはやどんな感情なのか自分でも分からない。

けれど涙がぽろぽろ零れ落ちて止まらなかった。

零れた涙がハルの頬におちて、一筋の線を描く。

それを見て余計に泣けてきた。
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