きみに触れられない
「ああ、うん。たまたまお父さんを探していたらこの病室に来ちゃってね。

なんだか年の近そうな人だから、どんな病気にかかったんだろうとか、高校生活を送れていないのかなとか、自分と重ねて考えるとなんだか泣けてきた」

私が笑うとお父さんは「そうか」納得したようだった。


「美咲も変わったな」


予想外の発言に思わず思考が停止した。


「へ?」

「変わったよ、美咲は」


いい方向に、とお父さんは付け加えた。


「感情が豊かになったというか、感情が表に出るようにまった」


それからお父さんは私の頭に手をポンと置くと撫でた。


「良かったな」


それは今まででいちばん嬉しい言葉だった。


お父さんは見てくれていたんだ。

限られた時間の中で、ほとんど分からないであろう私の変化を。

ちゃんと見ていてくれたんだ。

胸が熱くなったけれど、すぐにそれは冷めていった。

視界の端に映るハルの存在がすぐに思考をいっぱいにしていった。


「あ…私、もう帰るね」


私はそれだけ言うとろくに挨拶もせずに、病室を出た。

病室を出てすぐに壁を見る。

その病室に入院している人の名札があるはずだ。

そう思って見上げると、そこには一人の名前があった。


『長瀬遥幸』


ナガセ、ハルユキ。


私はさっき会った患者がハルだと確信した。

けれど分からなかった。

どうしてハルがこんなところで入院しているの?

起きている状態のハルには触れられないで、寝ている状態のハルには触れられる?

ユーレイって言っていたけど、どういうこと?


大きな疑問を残したまま、私は大学病院を後にした。
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