きみに触れられない
もう、こんなカナは見ていられなかった。

風が吹けばどこかに飛んで行ってしまいそうなほど儚く見えた。

辛いんだと、苦しいんだと、その感情を笑顔で隠せないほど、カナは辛く苦しんでいるのだと思うと、見ている方が辛くなる。

「か…」

カナ。

そう呼びかけようとしたとき、チャイムが鳴り響いた。

5限目開始を告げるチャイム。


「……俺、もう戻らなきゃ」

蓮という人物は「じゃあな」と片手を上げて、カナのことをとても心配そうに見つめながら名残惜しそうに帰っていった。

クラスメイト達はそれぞれ自分の席に着いた。

みんなそれぞれカナの様子をとても気にしていた。

カナは視線を落として、その視線にすら気づく様子はなかった。


それからクラス委員が自習の問題プリントを配ってみんなは自習を始めた。

カナが後ろの席の私に問題を渡すが、視線はかち合わなかった。

カナは向き直るとシャーペンを握ったけれど、そのまま問題を解くことはなかった。

何もしゃべらず、止まっていた。

私にはそれが泣いているように見えた。

肩も振るわせることなく、嗚咽を押し殺して、ただ涙を流しているのだと思った。


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