きみに触れられない
廊下を出ると、蓮という人物が他の男子5人と真剣な顔で話をしていた。


「それで、奏人はどうだった?」


奏人という単語が聞こえてきて思わず足を止める。


「ああ…あいつ、相当ショック受けてたよ。取り乱すくらい」


蓮という人物は眉を下げて辛そうにカナの様子を話し出した。

おそらくさっきの5時間目のできごとについて話しているのだろうと思った。

そして蓮という人以外もサッカー部の人たちなのだろう。


「あの奏人が取り乱すなんて」

「まあ、気持ちも分かるけどな」

「ああ、でもいつもの奏人の様子からすると驚きだよな」


カナはいつもみんなを明るく照らす太陽だった。

それは私の前だけではない。

部活でもそうだったのだろう。

その感情をいつも心の奥に押し込んで、明るくみんなを照らす。


「奏人がいちばん先輩と仲良かっただろ?」

「ああ、技も教えてもらってたし、可愛がってもらっていたよな」

「本当に仲が良かったよな。奏人も憧れだって言ってたし」

「ハル先輩だって、奏人がこれから部を引っ張っていく新しいエースになるって思ってただろうな」


ハル、先輩?

脳裏にハルの笑顔がちらつく。


いや、ハルというあだ名がつくような名前の人なんていくらでもいる。

ハルカ、ハルキ、ハルト。

いくらでも名前は思い浮かぶのに。


どうしてハルの笑顔がこびりついて離れないのだろう。
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