きみに触れられない
「そういえば奏人嬉しそうに言ってたな。
高校に入ったとき、『"長瀬先輩"じゃなくて"ハル"でいいよ』って言われたって」

「あんときの奏人、本当に嬉しそうだったよな」

「ああ、顔がデレッデレだったな」


『ハルって呼んで』

初めて会ったときのハルの声が脳内で響く。

『長瀬先輩』、『ハル先輩』、『カナが憧れている先輩』。

いくつものピースが、ひとつひとつ当てはまっていく。

でも、決定的なピースが分からない。


「あの!」

気が付けば私は彼らに話しかけていた。

「ど、どうしたの?」

「あれ、その顔、どこかで…」

彼らはひどく驚いた顔をしていた。

「あの、聞きたいことが…」

すると彼らは「ああ、奏人の幼なじみだ!」と納得した顔をした。

「知ってる、んですか?」

「そりゃあね」と彼らは笑った。

「奏人が出る試合によく来るでしょ。で、奏人もよくそっちの方見てたから」

「聞いたら幼なじみだって言ってたから、みんな覚えてるんだよ」

「そ、そうなんですか…」

なんだかちょっと恥ずかしくなった。

まさか奏人がそんなことを言っていたとは。

けれど今はそんなことを気にしている場合じゃない。

「さっき、聞こえたんです。カナに何があったんですか?」

彼らは顔を見合わすと、頷いた。
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