きみに触れられない
「昨日、お父さんの忘れ物を届けに行ったら、『お父さんは今病室にいる』って言われて5階の病室を探して回った。

それで、ある病室に入ったらハルにそっくりな顔をした人が横たわっていた。」


私は一歩ハルに向かって歩き出した。


「長瀬遥幸さんの病室で」


ハルは驚いたように、恐れるように目を見開いて動きを止めた。



「その人の前髪が風に揺れて手を伸ばしたら、触れた。

額も、頬も、手も」


それから私は右手を左手で包み込むようにそっと握った。


「手、温かかった」


呟く声は空気に馴染むように消えた。


ハルは悔しそうな顔をしていた。

辛そうに視線を下にそらしていた。


「ハルがユーレイなら、私はハルに触れない。

絶対に、触れない。

それなのに、どうして私はハルに触れたの?

どうしてさっきは触れなかったの?」


私はまた一歩近づく。


「私の幼なじみやサッカー部の人たちがハルのことを知ってた。

教えてくれたよ。

ハルが子どもをかばって交通事故に巻き込まれて昏睡状態だって。

もしそうなら、どうしてハルは今ここにいるの?

どうして触れられないの?」


私は3歩近づくと、立ち止まってハルを見据えた。

ハルは知られたくなかったことを知られてしまったときのような、バツの悪いような顔をして辛そうにうつむいていた。



「ハルの本当の正体は何?」




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