きみに触れられない
ハルは俯いて目元を手で覆うと、「参ったよ」と小声で言った。

それから前を向いて私に笑いかけた。


「まさかみーちゃんが米山先生の娘で、俺のこともそこまで知ってたなんてね」


想定外だよ。


ハルの声はいつものように明るくて、だけど辛い感情を押し殺しているんだって伝わってきた。



「俺はただ、屋上で会える友達としてみーちゃんの恋を応援するだけのつもりだったんだよ。

だから俺がユーレイなことも言うつもりはなかった」



ハルは視線を逸らして街を見下ろした。

街はすっかり夕焼けの中に溶け込んで、街のいたるところで光が灯りだした。



「俺はユーレイだよ」


ハルは言った。



「交通事故に巻き込まれて昏睡状態に陥って、身体から魂だけが抜け出した、そんなユーレイ。

もうすぐ身体からきちんと切り離されて正真正銘ユーレイになる、そんな存在だよ」



私はハルから目を逸らせなかった。

ハルの目が辛そうで、寂しそうで、静かに荒んでいる。

諦めているような、憂いているような、そんな瞳だった。



「は、る」


何か伝えられる言葉があるわけじゃない。

それでも名前を呼ぶことしかできない。


うまく言えないけど、ハルがもうどこかに行ってしまうんじゃないかと思った。


それほどまでにハルは儚く見えた。


「あ、もうサッカー部も野球部も練習終わるみたいだね」


ハルは独り言のようにつぶやいた。


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