きみに触れられない
「塩谷君はこれから部活なんだよね」

白いエナメルを見つめながら問うと「ああ」と短く呟いた。

「怪我しないように頑張れ」

「おう」

カナはニカッと白い歯を見せて笑った。

「じゃあな」と私に言うと、他のサッカー部と一緒に部活へ行ってしまった。

気が付けば、周りには人はほとんど残っていなかった。

みんな部活や塾、習い事など、様々なことに放課後の時間を使っている。

正直、部活に入ってみたかったなあと思う。

同世代の人達とひとつの夢に向かって頑張ってみたり、一緒に活動を楽しんだり。

部活に青春をかける、そんな人生も送ってみたかった。

でも、今の選択は自分が選んだこと。

この選択に後悔はないけど、でも、いろんな高校時代の過ごし方があるんだろうなと思う。

一度きりの高校生活、1つの方法でしか生活できないことに、ときどきむなしくなる。


荷物をぜんぶスクールバッグに入れると、教室を出て家路についた。

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