きみに触れられない
「ハルが好き。

だから私のそばにいてよ。

私、ハルがいないともう笑えない。

ハルがいないなんて嫌だよ」



そのとき、ピーというすさまじい機械音が鳴り響く。

医者や看護師は焦ったように対応していた。


私はその中でそっとハルの頬に触れた。

ほのかに温かい温度が伝わる。



『好きな人が、ハルのことを好きになったら…?』

『俺と両想いになっても、その子は幸せになれない。

俺がいるせいでその子が幸せになれないのなら、俺はその子の目の届かない場所へ、その子の目の前から、この世から、消え失せるよ』


…嫌だよ、そんなの。


何度も思い返すこのやり取り、ハルの寂しい笑顔。


「私の幸せは私が決める!

だからハルが決めないでよ!」



涙がじわり、じわり、滲んでは零れ落ちていく。

ハルは静かな顔で、涼やかな顔で、目を閉じている。



「置いていかないでよ!

私を置いて遠くにいかないで!」



涙が溢れて雫がハルの頬に落ちる。






「生きてよ、ハル!」





私が叫んだその時だった。


「先生!数値が!」


看護師の焦る叫び声にも似た声が聞こえる。

「これはまずいな、早く措置を!」

「していますが、これは!」

怒鳴るような医者と看護師の声。

機械音は鳴りやまない。

不安は募るばかりだけど、それでも私は叫び続けた。


この声が枯れるほど。




「ハル!」



ただ、好きな人の名前を呼び続けた。
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