きみに触れられない
屋上に向かうと、すでに先客がいた。


肩より少し過ぎるくらいの髪をなびかせて、街を見下ろしている。


何をしているのだろうと思って近づくと、目を奪われた。


その瞳がまっすぐで、透明で、きれいだと思った。


それにしても、だ。


『珍しいな、ここに人がいるなんて』


こんな場所、生徒がくるところじゃない。


すると彼女ははっと振り返った。


__俺の声が、聞こえるのか?


幽体離脱で身体から抜け出した後、自分の姿が見える人に会ったことはない。

これは、面白い人に出会ったかもしれない。

慌てて微笑みかけると、彼女は俺以上に慌てた様子であたりをキョロキョロ見渡した。

その様子が面白くて、ついからかうと顔を真っ赤にして睨みつけてきた。

なにこれ、可愛い。

俺の姿が見える上に、反応がいちいち可愛くて、それから彼女と話すのが楽しくて仕方がなかった。

会った瞬間心を掴まれて、少し話したら惚れていた。

そんな彼女には少し気になる人がいるらしかった。

それを俺は都合がいいと思った。

どうせ死ぬなら、彼女がそいつと両想いになるまで見守ろう。

それでもう、いいじゃないか。

もう思い残すこともないだろう。

それから俺は彼女の__みーちゃんの、キューピットになってやろうと思った。
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