きみに触れられない
「ハル!」

目を覚まして最初に飛び込んできたのは、視界いっぱいのみーちゃんの顔だった。

どれだけ泣いたのか目をはらして、俺の名前を呼ぶ。


「…みー、ちゃん…」

声は掠れていた。

うまく発音できないのが悔しいけど、それを上回るほど生きていると実感する。


「遥幸!」

母さんをはじめとする家族たちも泣いている。

さっきまでも悲しくて泣いていたのに、今もうれし泣きしている。

水分補給しないと泣きすぎで脱水症状を起こすんじゃないかとこっちが心配になってしまう。


「し、信じられない!」


病室にいた医者たちは口々に話した。

けれど米山先生だけは俺をじっとみてそれから微笑んでくれた。


「は、早く数値の測定の準備を!」

看護師たちはせわしなく動き回っていた。


「ハルっ、ハル!」


みーちゃんもみーちゃんで泣いていた。


さっきまですごくかっこよかったみーちゃんだけど、緊張の糸が切れたように崩れて泣き虫みーちゃんになった。


「…みー、ちゃん」

細くなった腕を伸ばして、みーちゃんの頬を触ろうと動かす。

ゆっくりとしか動かない腕は時間をかけてみーちゃんに近づくと、そっと触れた。

柔らかくて、温かい。

少し湿っているのは、涙の跡だろうか。


ぎこちなくて、不器用で、こんな触れ方しかできないけれど。

それでもみーちゃんに触れられたことが嬉しくて、すうっと一筋の涙が俺の目から流れていった。
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