きみに触れられない
「ぜんぶ、きこえてた」

ゆっくりとしか動かないこの口でそれを伝えると、みーちゃんは目を見開いて固まっていた。

それから顔を赤く染めていく。

だからそういうところが可愛くて仕方がないんだけど、きっとみーちゃんは無意識なんだろうな。

ほんと、可愛くて仕方がない。


「ハル先輩!」

「ハル!」

病室の外から大きな声がしてたくさんの人が入ってきたかと思ったら、それはサッカー部のメンツだった。

主に2,3年だけだったが、その先頭には奏人がいた。


「先輩!おれ、俺!」

奏人は目にいっぱいの涙をためていた。

ほんと、いいやつだよ、お前は。

優しくて、明るくて、大好きな後輩だ。


「お前、よく目を覚ましたな!」

「寝すぎなんだよ、バーカ!」

「先輩、良かったっす!」


サッカー部のメンツはそれぞれにそれぞれの言い方で喜んでくれた。

嬉しくて仕方がなくて、みんなにどれだけの心配をかけただろうと思うと一人一人にお礼と謝罪をしたかったけれど、目を覚ましたばかりの俺にはそれはできなかった。

だけど、一言だけでも伝えたかった。


「あり、がと」

ありがとう。


何よりもみんなに、伝えたかった。
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