きみに触れられない
「ああ、待ってよ、美咲!」

お母さんは嬉しそうな顔で私を呼び止める。

「…なに」

「そんな怖い顔しないでよぉ!」

怖い顔、というよりは、面倒くさくて仕方がない顔、なんだけどね。


「嬉しいのよ」


お母さんもお父さんも、まっすぐな瞳で、少しだけ涙で滲んだ瞳で、そう言った。


「ずっといろんな場面で我慢してきただろう美咲に好きな人ができて変われたことが、お父さんもお母さんも嬉しくてたまらないの」


両親の晴れやかな顔に、今度は私の瞳が滲んできた。


「…ありがとう」


きっと伝えきれないけれど、だからこそ何度だって伝えよう。

ハル、きみがそう教えてくれたよね。












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