きみに触れられない
それから私はうんと腕を組んで伸ばすと一気に脱力した。

ここのところの勉強のし過ぎ、運動不足で肩と腰はがっちがちに固まっていた。

『親より肩こり腰痛でどうするのよ、若者!』なんてお母さんからからかわれる始末。

勉強の時間は何より確保したいけれど、少しは身体を動かさないとダメだなあ。

そんなことを思いながら屋上の端に近づいてフェンスに手をかけると、街を見下ろした。

大きさもそれぞれの建物、家々のカラフルな屋根、道路を走っていくたくさんの車、向こうの丘の上に立つ鉄塔、お父さんの勤める病院。

去年見た街とほとんど変わりない。

けれどところどころ看板が変わっていたり、よく見れば変化がある。


みんな、少しずつ変わっていく。

私が変わったみたいに、少しずつ、ぱっとすぐには分からなくても、よく見れば分かるくらいのミクロな変化。

だけどそのミクロな変化が積み重なって、きっと大きな変化になる。


「またこんなところにいる」


後ろから声が聞こえて、慌てて振り替える。


その瞬間、ふわりと風が駆け抜けたような気がした。

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