きみに触れられない
「それにしても久々ね、家族が全員そろって晩ご飯だなんて」

お母さんは嬉しそうに言う。

確かにその通りで、家族そろっての晩ご飯は1週間に1度、あるかないかだ。

けれど、それが悪いことだとはどうしても言えない。

お母さんとお父さんが必死に働いてくれているおかげで、こうしてご飯が食べれるのだから。

それに2人とも大変だけど、それでも楽しそうに仕事をしているのだから、私にできることは、家族がそろうこの時間を大切にすることだけだ。

「美咲、ちょっと手伝って」とお母さんが呼ぶ。

お味噌汁を運んでほしいと頼まれ、それをテーブルに運ぶ。

「美咲は今日も塾なのか?」

お味噌汁を配っていると、お父さんが尋ねた。

「そうだよ」

今日も晩ご飯を食べたら、9時から2時間塾に行かねばならない。

「美咲はたくさん勉強するな」とお父さんは感心したように言う。

「だって、美咲は目指すものがあるんですもの」とお母さんが誇らしげに言う。

「お父さんと同じ脳外科医になるんだもんね」

ズキンと胸が痛くなった。

「それは楽しみだなあ」

ニコニコしているお父さん。


__誰が言い出したわけじゃない。

自分で言ったことだ。

『おとうさんみたいなお医者さんになりたい!』

幼い頃に思った将来の夢は今も昔も変わらない。

歩いてるんだ、昨日も、今日も。

あの日描いた夢に続くレールの上を、今日も、明日も。

これからもずっと。
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