きみに触れられない
カナは学校指定のスクールバックの他に、部活で使う道具が入ってるのであろう大きな白いエナメルの鞄を肩にかけている。

いつも思うがとても重そうだ。

「おはよう、カナ」

一緒に学校に行こうと誘われ、自転車を押して歩くカナの横を歩く。

「今日はおばさん早番なのか?」

私は頷いた。

「おじさんは?」

「昨日は当直で病院に泊まってるよ」

「え?それこの前もだったよな?」

「脳外科医って少ないらしいから、他のお医者さんよりも当直の回数が多いんだって」

「そうなのか、大変だな」

私は小さく「うん」と頷いて、それから「でも、2人とも仕事が好きみたいだから」と笑った。


「でも、今日も朝一人だったんだろ?」


寂しくないのか、とカナは心配そうに尋ねる。

寂しくないよ、と私は笑う。


「もう、慣れた」


実際、両親と直接会話することは少ない。

お父さんは大学病院の脳外科医で、よく当直で病院で寝泊まりしているからあまり家に帰ってこない。

お母さんは看護師で、早番の時は私が朝起きるよりも早く家を出ているし、遅番の時は私が朝家を出る頃はぐっすり寝ている。

小学校の頃から続く、変わらないこの生活。

だけど、お父さんは家に帰ってきたときは楽しそうに仕事のことを話してくれるし、お母さんも毎日置手紙を書いて、毎日お弁当を用意してくれている。

2人からちゃんと愛されているんだって、実感する。

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