きみに触れられない
カナが自転車を押す、その隣を歩く。

「なあ、今日の英語の宿題分かった?」

カナは渋い顔をしている。

「まあ」

「さすがだな、おい」

「むしろ分からなかったの?」

ちょっと意地悪な言い方をすれば「うっさいな!」と言われた。

「なに、嫉妬?」

ニッと笑って見せれば、「あーもう、教えてください!」とカナは頭を下げた。

「いいけど、今度何かおごってよ」

「自販機のジュースでもいい?」

「いいよ」

守られるかどうか怪しい契約を成立させると、カナは突然ふっと笑った。

「なに、どうしたの?」

「今日のミサ、いつもよりなんだか嬉しそうだな」

「え、そうなの?」

そんな自覚、まるでなかった。

驚きながら聞けば、「そうだよ」と言われてしまった。

「ミサは分かりにくいようで、分かりやすいからさ」

カナは笑った。

「昨日は久々にみんなそろって晩ご飯だったんだろ? ミサのお母さんが嬉しそうにうちの母さんに言ってたんだと」

確かに、それもすごく嬉しかったけど。

「良かったな」

カナはまるで自分のことのように、慈愛に満ちた笑顔を見せる。

「うん」

私もつられて笑った。

< 31 / 274 >

この作品をシェア

pagetop