きみに触れられない
クラスに着くと、やっぱり一番乗りだった。

大きく深呼吸をして、いつものように勉強を始める。

そういえば今日の数学、宿題はプリントだったっけ。

そう思ってファイルを取り出すと、いちばん最初に目に入ったのは進路希望調査の紙だった。

まっさらで、何も書かれていない紙。

書けなかった。

書こうと思ったら手が震えた。

見るのも嫌になって、ファイルにしまった。

逃げたんだ。

怖くてしかたがなくて。

結局私は弱いままだ。

はあ、と溜息を吐いて数学を解いた。


しばらくするとクラスメイトが何人か入ってきた。

ざわざわと騒がしくなる。

その中で「奏人おはよう!」と声が聞こえてきた。

カナが来たんだ。もうそんな時間なんだ。

そんなことを思っていると、私の横をカナが通った。


「おはよう、米山さん」

「おはよう、塩谷くん」


いつもと同じ朝だ。


「米山さん」


すると小さな声で遠慮がちに名前を呼ばれた。
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