きみに触れられない
顔を上げると私の斜め前、カナの隣の席の女の子、川島綾芽(かわしま あやめ)さんだった。
快活なショートヘア。
部活は女子バスケットボール部、だったっけ。
誰とでも仲良くなれるひと、クラス内でも発言力のあるひと。
サバサバしていているけど明るい。
私とは真逆な性格の人だ。
基本的に誰とも話さない私は、今まで一度も彼女と話したことがない。
「今日の英語の宿題どこだったか覚えてる?」
忘れちゃった、と彼女は可愛らしく笑った。
綺麗でかっこいいのに、飾らない、無邪気な子どもみたいな笑顔。
彼女の人を惹き付ける魅力が少し分かったような気がした。
「えっと、この前の授業で配られたプリントと次のユニットの予習だよ」
すると彼女は「ありがとう」と言うとさっそくプリントを取り出していた。
__うまく喋れたのかな、私は。
不安はあるけど、でも、今まででいちばんスムーズだったような気がする。
相手が川島さんのような誰とでも話ができるような人だったからかも分からないけど。
理由は何にせよ、ちゃんと話せたことが嬉しかった。
「あーやめ!おはよう!」
川島さんは岩田さんと森谷さんから話しかけられていた。
「おはよ」
「何してるの?」
「宿題」
すると二人は顔を見合わせて「えー!」と叫んだ。