きみに触れられない
「わたしは行けるよ。行きたいな」と森谷さんは笑顔になった。

やさしくて何もかも包み込むような笑顔だった。

「さっすが我が親友!綾芽は?」

川島さんはスケジュール帳を開いて、「まぁ、行けなくはないけど」と言った。

「じゃあ行こ!」

渋々と言った様子で川島さんは頷いた。

「なんでそんな顔をしてるの?」

せっかく甘いものを食べに行くのに!と岩田さんは、訳が分からないと言うような表情をした。

「だって、駅前のカフェって高いんだもの」

あたし今金欠なんだけど、と川島さんは溜め息を吐いた。

「そのための割引券なんじゃん!」

岩田さんは張り切って言った。

「割引券今日までしか使えないの!半額になるの!行こうよー!」

あまりの迫力に川島さんは「はいはい、行くよ」と溜め息混じりに答えた。

__もしかして川島さん、行きたくないんじゃないかな?

もしそうだったら、何とかしてあげた方がいいのかな?

でも、何とかって、何?

そんなことを思っていると、森谷さんがこそっと囁いた。

「綾芽は甘いもの好きだからね、結局甘いものを目にしたらテンション上がるんだよ」

だから心配しなくて大丈夫だ、と。

「綾芽、本当に行きたくなかったらちゃんと行きたくないって言うから」

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