きみに触れられない

変わる、一歩

次の日もいつものように学校に来て、いつものように朝から勉強する。

けれど、気持ちだけはいつもとは違った。

__頑張るんだ、絶対。

絶対頑張って、ハルに良い報告できるように。

そんな強い意思を持っていた。


「おはよう、米山さん」


いつもと同じようにカナが挨拶してくれる。


「おはよう、塩谷くん」


私も同じように挨拶した。

朝、私に挨拶してくれるのはカナだけだ。

そうだったはず、なのに。


「おはよう、米山さん」


カナ以外の人から挨拶された。


「お、はよう」


驚きすぎて一瞬ためらってしまう。

まず、誰に挨拶されたかも分かっていない。

私に声をかけてくれた人物は、私の横を足早に過ぎ去っていく。

スタスタと歩くその後ろ姿でようやく分かった。

川島綾芽さん。

昨日の朝、私に宿題を聞いた彼女だ。

川島さんは席に座るとすぐに読書を始めた。

何の本を読んでいるかは分からないが、文庫本のようだ。

すると岩田さんが近寄って言って「おはよう!」と声をかける。


「おはよう」


本から目を離さずに挨拶を返す川島さんに、「もう!」と岩田さんは怒ったような表情を見せる。

それがなんだか私にはとても眩しく映った。
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