きみに触れられない
昼休み、廊下、2人きり。

ざわざわとした喧噪の声は遠くから聞こえるけれど、私達の周りには静けさだけがあった。

お互いに何もしゃべらない。

ただただ目的地である職員室に向かって一直線だ。

何か、しゃべらなきゃ。

何か、話さなきゃ。

そんな思いで川島さんを見るけど、川島さんはまっすぐ前を見据えていた。


__何も話せない。


意気込んだ気持ちは空回る。

ばれないようにこっそりため息を吐いた。

しばらく歩いて職員室に着く。


「失礼しまーす」


両手がノートでふさがっていたためか、川島さんは足で職員室のドアを開けて、ずんずん進んでいく。

私は驚きつつも『どうか怒られませんように』と祈りながら「…失礼します」と小声で音を立てないようにそっとドアを閉めた。

先生の机を見つけて、ノートを倒さないようにそっと置いた。


「もうちょっと片づけてほしいよね」


川島さんはぼそっと呟いた。

私は遠慮がちに頷いた。

先生の机の上がノートやらプリントやらでゴチャゴチャだったからだ。


「まあ、いいや。これで終わりね」


私達は職員室を後にした。
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