きみに触れられない
「え、あたし?」

私は頷いた。

「憧れるよ。言いたいことをちゃんと言えて、誰とでも仲良くなれて、理解してくれる友達がいて。すごいなって、あんなふうになりたいなって憧れてる」


川島さんは、憧れの人だ。

常に自然体。

誰とでも自然と仲良くなれる。


「私は、思ったことも、言いたいことも、言えないから」


呟くように言うと、川島さんはそれを聞き流さずに「どうして?」と問いかけた。


私は言葉に迷った。

言ってもいいのかな、言ったら川島さん困ってしまうかな。


『ごめんね、なんでもないの』と言おうとして、ハルの言葉を思い出した。



__ハル、私はきみを、きみの言葉を信じていいかな。

想いは伝わるんだって、私だってちゃんと話せるんだって、信じてみてもいいかな。

私は、私を信じてみたいよ、ハル。


私は震えそうになる拳をぎゅっと握った。


「__言いたいことや話したいことは、たくさんあるんだよ。

ありがとうとか、ごめんなさいとか、好きな本は何ですかとか、今日は天気がいいねだとか、たくさん、たくさん。

でもね、急に分からなくなるの」


「分からなくなる?」


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