きみに触れられない

太陽、2人きりの時間

次の日の朝、いつものように家を出るとカナがいた。

「おはよう」

挨拶しながらカナに近づくと、カナは不思議そうな顔をして私に言った。

「ミサ、なんかいいことあった?」

「え?」

「今日のミサ、いつもより楽しそうだから」

そう言われて、私は無意識に感情が表情に出ていることを知った。

「そんなに、分かる?」

両手で頬を触りながら聞けばカナは頷いた。

「何があった?」

「実は…」

言おうとしたところで、カナは立ち止まった。

どうしたのかと思って前を見れば、目印の標識が見えた。


__いつのまに、こんなに歩いたんだろう。


カナは「続きはクラスで聞くから」と言って朝練へ向かった。

颯爽と自転車で駆け抜けていく後ろ姿を見ながら、私はまた歩き出した。

いつもと同じ道なのに、今日はいつもと違って見えた。


例えば、道端に咲く小さな花だとか。

道路の横を流れる名もない水路だとか。


普段目にするなんてことない風景のひとつひとつが、全部、全部、いつもより鮮明に視界に映る。

キラキラと輝くような、そんな感じだ。

心なしか、歩く歩幅も速度も違うように感じた。


踏み出した足は軽かった。

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