きみに触れられない
「おはよう」

朝、いつものように自習をしていると、他の人たちが挨拶をしている声が聞こえてくる。

するとカナが私の横を通り過ぎる時に「米山さん、おはよう」と言った。

「おはよう、塩谷君」

いつもの調子で返していると、後ろから声が聞こえてきた。


「ミサ、おはよう」


川島さんの声だ。

振り返ると川島さんがにっこり笑顔で登校してきた。


「お、はよう。川島さ…」


驚きと焦りを隠しきれずにどぎまぎしながら返事をすると、川島さんは「違う」と言った。


「『川島さん』じゃなくて『綾芽』。昨日も言ったじゃん」


そう言われて私は「そうだったね」と照れ臭くなった。


「綾芽ちゃん、おはよう」


すると川島さん、改め、綾芽ちゃんは満足したように「おはよう」ともう一度言ってくれた。

その様子を見ていちばん驚いていたのはカナだった。

目を見開いて、こちらを凝視している。


「どうしたの、塩谷君」


私がそう声をかければ、「あ、いや」と我に返ったようだった。

それから私の顔と綾芽ちゃんの顔を見比べながら、次第に表情を柔らかくしていった。

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