きみに触れられない
「ああ、だからあんなに嬉しそうだったんだな」


私は大きく頷いた。


「友達、できたんだ」


私の言葉にカナは柔らかく微笑んだ。

それからカナは背中をうんと伸ばしながら脱力するように言った。

「まさか俺以外の人がミサって呼ぶようになるなんてな」

信じられないや、とカナは言う。


「私も、信じられない」

私は胸に手を当てて噛み締めるように言った。


あのとき、綾芽ちゃんは私に「綾芽って呼んで」と言っていたけど、いきなり人を呼び捨てにできなくて『綾芽ちゃん』と呼ぶことになった。

それから綾芽ちゃんは私のことを『米山さん』と呼ぶのはなんだか嫌だと言って「ミサって呼んでもいい?」と聞いてきた。

私はそれに頷いた。

すごく嬉しかった。

嬉しくて、嬉しくて、泣きながら頷いた。


「良かったな」

カナはまるで自分のことのように喜んでくれた。


「友達ができること、ずっと望んでいただろ?」


カナとはずっと一緒だった。

産まれて、物心がついたときには、そばにいた。

それから保育園、小学校、中学校、高校。

驚くほど、クラスが同じだった。

人生のほとんどをカナと過ごしてきた。

だからカナはずっと知っていた。


私の面倒な性格も、親の知らない私の外面(そとづら)も。


人と話すのが苦手なくせに、友達を欲していたことも。


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