きみに触れられない
「は、る」

「お弁当、食べないの?」


その瞬間、ぐう、とお腹は唸り声を上げた。

恥ずかしくてお腹を押さえて俯いた。


「お腹空いてるんでしょ」

ハルは笑いながら私の横に座った。

私は卵焼きを口に運びながら頷いた。


「ハルは食べないの?」

「あー、俺は大丈夫。みーちゃんが食べるところを見てるよ」

「見ても楽しくないよ」

「楽しいよ」

「変なの」

楽しそうに笑うハルに少し苛立ちながらも、この空気が好きだなあと思った。

穏やかだと思った。


「今日はなんだか楽しそうだね」

ハルが突然言った。

「そうかな」

「そうだよ」

それからハルは「何かあったの?」と聞いた。

私は頷いて、お弁当を食べていた手を置いた。

そしてまっすぐハルを見つめた。


「あのね、ハル。

私、ハルの言葉を信じて良かった」


するとハルは目を見開いてそれから微笑んだ。


「ね、俺の言った通りだったでしょ」


その表情は、まるで誇らしく咲く花のようだった。

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